
つい先日、ある人気作家(陶芸)さんから「値上げ」についてのご相談。
催事に出る際も売上の手数料や送料など、製作原価以外にもコストが掛かるので、いくつかアドバイスを…スッキリされたようで、本当に良かったです。
【無料相談】値上げ(賃上げ)・価格転嫁・価格交渉
さて
「値上げ」と聞くと、顧客離れや消費者の買い控えや反発を招くネガティブな印象が強いものです。しかし、世の中にはファンから「もっと取っていい(高くでもいい)」「値上げしてくれて安心した」と、むしろ応援される値上げが存在します。
なぜ彼らは、財布に厳しいはずの決断で支持を集めたのか。
まずは その成功事例から、これからの時代の「価格設定」と「信頼関係」のあり方を探ります。
1.「10円の誠実さ」で感動を呼んだ:赤城乳業(ガリガリ君)
最も有名な「応援された値上げ」といえば、2016年の赤城乳業による「ガリガリ君」の価格改定(60円→70円)でしょう。
● 戦略のポイント:徹底した「謝罪」と「可視化」
通常、企業の価格改定はひっそりと行われるものですが、同社は社長以下社員が並んで深く頭を下げるテレビCMを放映しました。
● なぜ応援されたか?
25年間価格を維持してきた企業努力が国民に伝わっていたため、「10円上げるだけであんなに謝らなくていいのに」「むしろ安すぎた」という同情とリスペクトに変わったのです。
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【 参考 】この値上げ事例の分析やプロセスは「顧客が離れない値上げセミナー」にて分析し、「皆さんのビジネスに応用できる」よう解説しています
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2. 「未来を守る」ための決断:鳥貴族
2017年と少し遡りますが、全品280円均一から298円(現在は327円〜)へ、28年ぶりの値上げを敢行した鳥貴族。
● 戦略のポイント:ブランドの「持続可能性」を強調
単なるコスト増の転嫁ではなく、従業員の待遇改善や国産食材の品質維持のために必要であることを明確にしました。
● なぜ応援されたか?
「安さの裏に無理がある」ことを消費者が察知し始めている時代において、「大好きな居酒屋がなくなってほしくない」「スタッフに還元してほしい」というファン心理に火をつけました。
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3. 「価値の再定義」を行った:東京ディズニーリゾート
価格が上昇し続けているディズニーリゾートですが、ダイナミックプライシング(変動料金制)を含め、値上げのたびに注目を集めます。
● 戦略のポイント:体験価値(UX)の向上
単に値段を上げるだけでなく、新エリアのオープンや、混雑緩和による「パーク内での快適な時間」の提供をセットにしています。
※ UX(ユーザーエクスペリエンス)とは?
ユーザーが製品やサービスを利用する際に得る体験全般を指し、使いやすさ、デザイン、機能性、感情的な反応など、利用前・利用中・利用後のすべてのプロセスで生じる感覚や満足度を含みます。単なる「使いやすさ(ユーザビリティ)」だけでなく、感動や心地よさといった「コト」のデザインであり、顧客満足度やロイヤルティ向上に繋がる重要な概念です。
● なぜ応援されたか?
「高いお金を払ってでも、快適に過ごしたい」という層のニーズを捉え、単なる入場券ではなく「プレミアムな体験」を過ごす対価として正当化されたからです。
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応援される値上げに共通する「3つの条件」
成功事例を分析すると、共通するキーワードが浮かび上がります。
(1)プロセスの透明化
「なぜ上げるのか」の理由が、原材料費の高騰だけでなく、「品質の維持」や「従業員の生活の質を守る⇒結果的に商品・サービスや接客の質の向上」といった納得感のあるものであること。
(2)これまでの「貯金」
長年、安価で良質なものを提供し続けてきたという「信頼・安心の貯金」がある企業・お店ほど、いざという時に背中を押してもらえます。
(3)「安さ」以外の価値の提示
「安さ」だけが売りの商品は、値上げした瞬間に顧客が離れます。しかし、「この空間が好き」「この理念を応援したい」という情緒的価値を持つブランドは、値上げがファン同士の結束を強めることすらあります。
値上げは「対話」である
今の時代、消費者は単に「安いもの」を探しているわけではありません。自分のお金が、正当な対価としてどこへ流れていくのかを厳しく、かつ温かく見守っています。
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値上げとは、単なる価格の改定ではありません。
それは、経営者が顧客に対して「私たちはこれからも、これだけの価値を提供し続けます」という決意を問う、究極のコミュニケーションです。
現場で交わされるリアルな声から、応援されるブランドと見限られるブランドの境界線を深掘りします。
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【応援される値上げ】
値上げで関係性を深めた事例〜3名の声
応援される値上げに共通するのは、顧客が「お店・会社からの商品・サービスの恩恵を受ける側」であると同時に、ブランドの「存続を願うパートナー」になっている点です。
「これからもこの味を守ってほしいから、喜んで払います」
● 佐藤さん 仮名(58歳・会社役員)
● 背景
30年通い続けている老舗の蕎麦屋。
店主が「原材料の鴨肉と蕎麦粉の質を落としたくない。しかし今の価格では赤字になる。店が存続できない…」と、苦渋の決断を記した手紙をお品書きに添えた。
● 深掘り/分析など
佐藤さんにとって、この店は亡き父との想い出の場所であり、心から信頼できる「本物の味」を提供する聖域です。
「安くして質が落ちたり、店を閉められるくらいなら、適正な価格を払ってでも守りたい」という心理が働いています。
これは、長年の「誠実さの積み立て」が利息を生んだ結果です。
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「スタッフさんの笑顔が消えるのは嫌。賃上げのためなら大賛成です」
● 高橋さん 仮名(34歳・IT企業勤務・一児の母)
● 背景
自宅近くのカジュアルイタリアン。
お店のスタッフが皆、子どもの名前を覚えてくれるほどフレンドリーで居心地が良い。
店側が「スタッフの生活を守り、より良いサービスを提供し続けるため、サービス料の新設と価格改定を行います」とSNSで発表。
● 深掘り/分析など
高橋さんは、サービスの質が「人の心の余裕」から生まれることを知っています。
「自分が払うお金が、いつも親切なあの店員さんの給料になる」というお金の行き場所が明確に見えたとき、消費者は値上げを「社会貢献」に近い感覚で快諾します。
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「新しい挑戦を応援します!さらに良くなるのが今から楽しみ」
● 伊藤さん 仮名(27歳・デザイナー)
● 背景
お気に入りのヘアサロン。
値上げと同時に、最新のトリートメント機器の導入と、待ち時間に提供するティーサービスのアップグレードを宣言。
「5年後、地域で一番クリエイティブな場所にするための投資とさせてください」というポジティブな告知を行った。
● 深掘り/分析など
若い世代は、現状維持のための「補填」には厳しい意見が多いですが、未来への「投資」には敏感です。
伊藤さんは、値上げを「値上がり」ではなく、「自分の行きつけがアップグレードする会費」として捉えています。
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【応援されない値上げ】
信頼を失った事例〜7名の声
一方で、顧客が背を向ける値上げには「説明不足」「不誠実」「甘え」などの要素が混じっており、顧客・消費者はその匂いを敏感に察知します。
「いつの間にか高くなってた。レジでの気付きは不親切すぎる」
● 鈴木さん 仮名(45歳・主婦)
● 背景
毎週通うベーカリー。
特に告知もなく、ある日突然に大好きなカレーパンが50円値上がりしていた。
● 深掘り/分析など
鈴木さんが怒っているのは、50円という金額ではありません。
「黙っていれば気づかないだろう」という店側の慢心と不誠実さです。
サイレント値上げは、長年築いた信頼を数秒で破壊します。
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「中身がスカスカ…。値段を据え置くために客を騙すのは最悪」
● 田中さん 仮名(22歳・大学生)
● 背景
コンビニの定番弁当。
価格は変わらないが、容器の底が上げ底になり、明らかに具材が減った。
● 深掘り/分析など
いわゆる「ステルス値上げ」です。
田中さんはSNSで「上げ底」の画像を共有し、「もう二度と買わない」と投稿。
現代の消費者は、企業が思う以上に賢く、情報の拡散力を持っています。
「姑息な手段」は、ブランドイメージに消えない傷をつけます。
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「『原材料高騰』って言い訳ばかり。努力の跡が見えない」
● 渡辺さん 仮名(52歳・自営業)
● 背景
行きつけの定食屋。
壁に「世界情勢による原材料高騰のため、全品100円値上げします」という冷たい貼り紙が出された。
● 深掘り/分析など
渡辺さんは自身も経営者であるため、外部環境の厳しさは理解しています。
しかし、セルフサービスの導入やメニューの効率化など、「店側が身を削る努力」をした形跡が見えないまま、客に全額転嫁する姿勢に「甘え」を感じてしまいました。
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「高くなったのに、サービスが雑になった。お金を払う価値がない」
● 加藤さん 仮名(39歳・専門職)
● 背景
少し高価なシティホテル。
宿泊費が1.5倍に跳ね上がったが、人手不足でチェックインに30分待ち、清掃も行き届いていない。
● 深掘り/分析など
価格を上げると、顧客の期待値(ハードル)も比例して上がります。
加藤さんは「高い料金を払っているのだから、それ相応の体験ができるはず」と期待して裏切られました。
「価格と価値のバランス」が崩壊した瞬間です。
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「どこも上げてるから、うちも…って、便乗してるだけじゃない?」
● 山本さん 仮名(31歳・事務職)
● 背景
近所のカフェ。
周囲のチェーン店が値上げしたタイミングで、特に理由もなく同調。
● 深掘り/分析など
山本さんは、その店独自の「こだわり」が好きで通っていました。
しかし、他所に合わせた安易な値上げを見て、「この店には確固たるポリシーがないんだな」と冷めてしまいました。
「信念なき値上げ」は、ファンを一般客に変えてしまいます。
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「一気に上がりすぎて、もう私たちが来る場所じゃなくなったみたい」
● 中村さん 仮名(70代夫婦・年金生活)
● 背景
週末の楽しみにしていた洋食店。
コース料金が 3,000円から5,000円へ大幅改定。
● 深掘り/分析など
店側が「ターゲット客層の総入れ替え」を狙ったのであれば成功かもしれませんが、多くの場合、これは値上げ設計ミスです。
長年支えてくれたリピーターの「生活水準」を無視した急激な値上げは、コミュニティを破壊します。
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「店主の苦労話なんて聞きたくない。プロ失格だよ」
● 小林さん 仮名(42歳・営業職)
● 背景
ラーメン店。
SNSで店主が「もう限界です、家族を養えません、助けてください」と泣き言のような値上げ告知を投稿。
● 深掘り/分析など
同情を引くスタイルは、一時は助けてもらえるかもしれませんが、長続きしません。
小林さんは「美味しい一杯」というプロの仕事を買いに行っているのであって、店主の「不幸の切り売り」を買いに行っているのではないからです。
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クチコミ・リピートを最大化する「戦略的値上げ」
値上げを成功させ、さらに顧客を増やすためには、以下の3つのマーケティング視点が不可欠といえるでしょう。
① 「納得感」をシェアさせる(クチコミ集客)
値上げを応援する3名のように、納得感のある値上げは「この店は誠実だ」という強い信頼に変わります。
顧客がSNSや友人に「値上げしたけど、やっぱりここは素晴らしいよ」と「称賛・擁護のクチコミ」を書いてくれる状態を作ること。
そのためには、感情に訴える「ストーリー」と、論理的な「根拠」の両方を提示する必要があります。
② 「既存客をVIPとして扱う」(リピート販促)
新規客には新価格を適用しつつ、リピーターには「いつもありがとうございます」という感謝を形にして伝えます。
● 先行告知期間の設置
「〇月からは値上げしますが、今月中は回数券を旧価格で販売します」
● 裏メニューの提供
「価格は上がりましたが、常連様には一品サービスをお付けします」
「値上げ=負担増」ではなく、「値上げ=より大切にされる機会」と捉え直してもらう施策が、離脱を防ぎます。
③ 「体験の純度」を上げる
価格改定のタイミングは、サービスの無駄を削ぎ落とし、看板メニューの質を極限まで高める絶好の機会です。
顧客に「高くなったけど、それ以上の満足感がある」と言わせたら、マーケターとしての勝利です。
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