
インバウンド需要の爆発的な増加と、続く円安。いま、日本の観光地や飲食店が直面している問題のひとつが「二重価格」です。
「外国人から値段を高く取るのは差別ではないか?」「でも日本人の物価感覚ではもう限界…」。こうした葛藤を抱える経営者や自治体は少なくありません。
値上げとクチコミ・リピート販促の専門家として、この問題を「単なる価格差」ではなく、「持続可能な顧客体験の再構築」という視点から読み解いています。
今回は 現場のマーケティング視点から、姫路城の事例を含めた戦略的な解決策を提示します。
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【二重価格でトラブル】訪日客が返金要求
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インバウンド二重価格の正体
それは「差別」ではなく「価値の最適化」である
なぜ今、二重価格が議論されるのか
かつてデフレに苦しんだ日本にとって、インバウンドは救世主でした。しかし、現在起きているのは「オーバーツーリズム」と「価格の乖離」です。
海外の主要観光都市では、物価高騰によりランチ1食が4,000円〜5,000円することも珍しくありません。一方、日本では1,500円も出せばかなりのクオリティの食事が楽しめます。この「安すぎる日本」が、結果として現場の疲弊、人手不足、そして地元住民がサービスを受けられないという歪みを生んでいます。
ここで検討される「二重価格」とは、外国人観光客に「高く売る」ことだけが目的ではありません。「地域住民の生活圏を守りつつ、観光資源の維持コストを適切に徴収する」ための合理的手段なのです。
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【参考事例】姫路城が示した「市民 or 市外」という解
二重価格の議論で象徴的なのが、世界遺産・姫路城の事例です。
当初、姫路市の清元市長は「外国人は30ドル、市民は5ドル程度にしたい」という意向を示しました。しかし、結果として落ち着いたのは「外国人限定」ではなく「市民」と「市外(日本人含む)」という区分です。
【1】姫路城が直面した「差別の壁」と「公平性の壁」
「外国人だけを高くする」という方針は、人種や国籍による差別と捉えられるリスク(憲法や国際条約への抵触の懸念)がありました。また、現場でパスポートを確認するオペレーションの負荷も無視できません。
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【2】マーケティング的な転換点
姫路城が選んだ「市民割引(または市外料金の設定)」という手法は、実は世界中の観光地で採用されているスタンダードなモデルです。
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| ● 市民 ⇒ | 納税を通じて城の維持に寄与しているため、還元としての低価格。 |
| ● 市外(インバウンド含む)⇒ | 観光としての受益者負担、および維持修繕のための寄付的側面を含む適正価格。 |
この「住民優遇」という建付けにすることで、外国人観光客への角を立てず、かつ「世界遺産を守るための正当な対価」として、2,000円〜3,000円というグローバルスタンダードな価格帯へ引き上げる大義名分を得たのです。
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飲食店における「二重価格」を成功させる3つのマーケティング戦略
外国人観光客への二重価格問題の解決策飲食店が二重価格、あるいはインバウンド向け高単価メニューを導入する際、最も恐れるのは「SNSでの炎上」や「クチコミの悪化」でしょう。専門家として、以下の3つのステップを推奨します。
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① 「価格差」を「体験差」に変換する
単に「日本語メニューは1,000円、英語メニューは2,000円」とするのは最悪の手です。
これは不誠実な二重価格として、Googleマップで致命的な低評価を招きます。
現時点での最適解は、「外国人向け高付加価値プラン」の構築です。
● 多言語対応・文化解説
料理の背景や食べ方をタブレットや動画で解説するサービスを含める。
● プレミアム食材の活用
地元民は日常的に食べないが、観光客が求めている「ブランド牛」や「希少な日本酒」をセットにする。
● 予約・優先席の確保
待ち時間を解消するファストパス的な要素を価格に転嫁する。
「高い理由」がサービス内容に含まれていれば、それは二重価格ではなく、「ターゲット(対象者)別商品ラインナップ」に価値転換されます。
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② クチコミを味方につける「期待値コントロール」
インバウンド集客において、Googleマップの星の数は生命線です。
二重価格気味の料金設定をしても高評価を得るには、「期待値を上回る感動」が不可欠です。
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● フォトジェニックな演出
外国人観光客がSNSに投稿したくなる「盛り付けの美しさ」や「シズル感」に徹底的にこだわる。
● スタッフのホスピタリティ
英語の流暢さよりも、「Welcome」の姿勢が伝わるコミュニケーション。
● サンキューレターの活用
会計時に「この収益の一部は日本の食文化の継承に使われます」といったメッセージを添えることで、高価格への納得感を高めます。
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③ リピート販促:インバウンドは「1回切り」ではない
多くの経営者が「観光客は一度きりだから高く取って終わり」と考えがちですが、これは大きな間違いです。
現代の観光客は、SNSのフォロワーを通じて「擬似的なリピーター」を生み出します。また、再訪時や友人への紹介を促すために、デジタル会員証やSNS等での繋がりを持つことが、中長期的な集客コストを下げます。

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【まとめ】これからの「価格戦略」と日本の未来
「二重価格」という言葉にはどこかネガティブな響きがありますが、私はこれを「価格の正常化」と呼ぶべきだと考えています。
姫路城の事例が教えてくれるのは、「誰を、なぜ優遇するのか」という哲学を持つことの大切さです。地元の人に愛され続けるために、外部からの収益を最大化し、それを地域やサービスの質に再投資する。このサイクルこそが、これからの日本観光に求められる姿です。
今後の対策アクションプラン
【1】住民・常連優遇制度の導入
全員を一律に値上げするのではなく、アプリや会員証を持つ「常連・地元民」には旧来の価格を適用する(実質的な二重価格の運用)。
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【2】インバウンド専用メニューの構築
翻訳+体験+希少性をパッケージ化し、納得感のある高単価商品(例:インバウン丼のような象徴的商品)を作る。
【3】情報発信の透明化
なぜこの価格なのか、どのような付加価値があるのかを英語・中国語・韓国語でしっかり明記する。
「安売り」からの脱却は、勇気がいるかもしれません。
しかし、価値に見合った対価をいただくことは、スタッフの給与を上げ、日本の素晴らしい文化を次世代に繋ぐた必要な取り組みです。
貴店・貴社の現在のメニュー構成を拝見し、具体的に「どのメニューをどのように高付加価値化し、外国人向けに打ち出すべきか」の診断をご希望の方はお問い合わせください。







