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値上げはビジネス成長の証、ただし値上げ手順の間違いには要注意
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インフレ、原材料費の高騰、円安… 企業が製品やサービスの値上げに踏み切るのは、健全な事業継続のため、そしてより良い価値提供のための必要な経営判断です。適切に実行された値上げは、企業の利益率の改善/従業員への還元/さらなる品質・サービスの向上に再投資されます。
しかし、値上げには「顧客離れ」や「ブランドイメージの棄損」という大きなリスクが伴います。このリスクを避けようとして、企業が安易に手を出してしまいがちなのが、最も危険な値上げ手法、すなわち「ステルス値上げ」です。
今回の記事では、なぜステルス値上げが最悪の選択であり、リピート集客とクチコミ設計の観点から絶対に行ってはいけないのか、そしてそのリスクを回避し、顧客から支持される値上げを行う方法について解説します。
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皆さんは最近、コンビニやスーパーで「あれ?この大好きなお菓子…袋が小さくなった?」「いつものパン(5個入)が4個になった」と感じたことはありませんか?
飲料にしても 350mlが330mlになっていたり…その時、残念な気持ちと仕方ないなぁ…何ともモヤモヤした気持ちになったことはないでしょうか?
ステルス値上げとは?消費者を欺くNG行為
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ステルス値上げ(Shrinkflation:シュリンクフレーションとも呼ばれます)とは、商品の価格は変えずに、内容量やサイズ、個数などをひっそりと減らすことで、実質的な値上げを行う手法のことです。おそらく説明不要ですね ^_^
● 例01:1袋300円のポテトチップスを、内容量100gから90gに減らす。
● 例02:1パック5個入りだったヨーグルトを、価格はそのままに4個入りにする。
● 例03:以前は無料だったサービスや付属品を、有料オプションに変更する。
企業側の言い分としては、「価格維持の努力」かもしれませんが、消費者の視点から見ると、これは「実質的な値上げ」を顧客に隠している行為に他なりません。
ステルス値上げを知ったときの消費者の気持ち⇒裏切りと不信感
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消費者はある日突然、「あれ? いつも買っているお菓子の袋が小さくなったな」「この洗剤、前よりすぐになくなる気がする」と気づきます。このときの消費者が抱く感情は、単なる「値上げに対する不満」を超えた「深刻なネガティブ感情」です。
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1. 「裏切られた」という不信感
消費者にとって、価格と内容量は「企業との暗黙の契約」です。その契約が、企業の都合の良いように、事前の通知なく変更されていたと感じたとき、「裏切られた」という感情が生まれます。
「どうせ値上げするなら、堂々としてくれればいいのに。騙そうとしたのか?」
この不信感は、単なる商品への不満ではなく、企業そのものに対する不信へと発展します。
2. 「バカにされた」という侮辱感
企業は、消費者がこの変化に気づかないことを期待してステルス値上げを実行している…と勘ぐってしまいます。気づいた消費者からすれば、「自分たちは企業の都合のいいように騙せる、愚かな存在だと見られている」という侮辱感を抱くことも想定してしておくべきです。
3. 「もう二度と買わない」というブランドスイッチの決定
このネガティブな感情がピークに達すると、消費者はその企業やブランドに対し「信頼できない」というレッテルを貼るかもしれません。このとき、競合他社の商品が少し高くても、あるいは味が多少劣っていても、「正直な企業」を選ぶなど…あっさりとリピート購入をやめてしまったことがある…。という話を、周囲で耳にしたことがあります。
「消費」は「感情」です。
値上げ幅(実質的な)が小さいほど、不信感は増幅するという声も聞きます。なぜなら「これくらいの微細な変更も正直に言えない企業なのか」と感じるからだそうです。
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リピート集客とクチコミ設計を破壊する3つのリスク
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ステルス値上げは、企業が最も重視すべき「リピート集客」と「クチコミ設計」という2つの集客生命線を断つ…ことにもなりかねません。
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1. リピート集客のストップ:LTV(顧客生涯価値)の消失
リピート集客は、顧客との信頼関係の上に成り立っています。
ステルス値上げが露呈し、SNSなどでマイナス要素で拡散されると、その信頼は一瞬で崩れ去ります。
● 顧客の視点
信頼できない企業の商品を、繰り返し購入する理由はありません。
● 結果
一時的な利益は出ても、その顧客が将来にわたってもたらすはずだったLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)がゼロになり、長期的な収益が大きく減少します。
※ LTV=「Life Time Value(ライフタイムバリュー)」の略。日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。顧客が企業と取引を始めてから関係を終えるまでの期間に、その顧客が企業にもたらす利益の総額を指します。
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2. クチコミの毒化:ネガティブ・バイラル・マーケティング
今の時代、消費者が企業への不満を表明する場所は多様です。
ステルス値上げの発見は、瞬く間にネガティブなクチコミとして拡散されることも。
有名企業だけでなく、小さな飲食店でも、ステルス値上げ後に GoogleMAPのクチコミに「以前よりハンバーグが小さくなったのが少し残念(評価:☆☆)」などの書き込みがあり、その書き込みを多くの人が閲覧する可能性もゼロではありません。
● SNSでの拡散
「〇〇(商品名)、量が減ってる!許せない」「#ステルス値上げ」といった投稿は、発見者の優越感と共感者の怒りによって、恐ろしい速度で拡散される可能性があります。企業・お店の認知度が高いほど、その拡散速度は速い傾向にあります。
● クチコミサイトの荒廃
そのような状態になった場合、商品の評価レビュー等は、品質ではなく「不誠実な企業」の評価で溢れかえります。
● 結果
新規顧客が購入を検討する際に、これらのネガティブな情報(書き込み・クチコミ)に触れ、購入を見送る「ネガティブ・バイラル・マーケティング」が機能してしまうことも。悪いクチコミは、リピート集客だけでなく、新規集客の最大の障壁となるのです。
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3. ブランドイメージの永続的な棄損
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ステルス値上げを繰り返す企業は、「姑息な企業」「消費者を欺く企業」というイメージが定着してしまう可能性があります。
一度失ったブランドの信頼を回復するには、長い時間と巨額のコストがかかります。
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リスクを回避し、顧客から支持される値上げ設計
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では、リピート集客とクチコミを強化しながら、値上げを成功させるにはどうすれば良いでしょうか?
そのカギは「誠実さ」と「付加価値の明確化」です。
1. 誠実な情報開示:価格改定の「理由」と「時期」を明確に
ステルス値上げとは真逆の、正面突破のコミュニケーションが必須です。
● 理由の明示
「なぜ値上げが必要なのか?」を明確に伝えます。「原材料費が〇〇%高騰したため」「よりサステナブルな製法に切り替えるため」など、具体的な事実と目的を誠実に伝えます。
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● 感謝と謝罪
長年の愛顧への感謝と、値上げによって負担をかけることへの誠実な姿勢を表明します。
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2. 「値上げ以上の価値」を付加する:価値の再定義
単に価格を上げるだけでなく、「値上げによって、顧客は何を得られるのか?」という付加価値を同時に提示します。
● 品質の向上
(例)価格は上がりますが、新成分◯◯を配合し、約20%の効果アップが期待できます
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● サービスの改善
(例)価格を改定し、今後は無料の個別相談サポートを提供します
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● リニューアル
(例)パッケージを刷新し、環境配慮型にするなど、付加価値を視覚的に訴えます。
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顧客は、価格が上がることよりも、「価格は上がったが、それ以上の価値を受け取れた」と感じることで、納得することが殆どです。これにより、企業価値・信頼を高めます。
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3. 顧客コミュニケーションのプロ化:クチコミを設計する
値上げのタイミングは、顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、リピート顧客を特別扱いする絶好の機会です。
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● ロイヤル顧客(上顧客・常連)への先行告知
日頃から利用してくれるロイヤル顧客に対しては、一般告知より前に値上げの連絡を行い、感謝の特典(例:値上げ前の特別価格での購入期間、限定ノベルティ)を提供します。これにより、「大切にされている」と感じてもらい、ポジティブなクチコミの種をまきます。
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● FAQの徹底
値上げに関する顧客からの質問や懸念事項を先回りして想定し、誠実なFAQを公開します。
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まとめ:信頼こそが最強の集客・クチコミ設計術
ステルス値上げは、短期的な利益追求のために、最も大切な資産である「顧客からの信頼」を切り売りする行為です。
リピート集客とクチコミは、一夜にして築かれるものではなく、企業と顧客との間で積み重ねられた誠実さという土台の上で初めて機能します。
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【値上げ成功のための黄金律】
「ステルス値上げは、リピート客を永久に失い、ネガティブなクチコミを自ら拡散させる自爆行為である。真の成長は、誠実な値上げを通じて、顧客からの納得と支持を得ることから始まる。」
値上げは「ごまかす」ものではなく、「次のステージへ進むための宣言」であり、顧客とともに成長するためのパートナーシップ再構築の機会です。堂々と、誠実に、価値ある値上げ戦略を実行しましょう。








