
近年、ビジネスシーンにおいて「年賀状離れ」が加速しています。
虚礼廃止を掲げる企業が増え、「デジタル化の時代に紙は古い」「コストと手間の無駄」といった意見が主流になりつつあります。
しかし、ビジネスの本質が「人と人との信頼関係」である以上、年賀状を単なる事務作業として切り捨ててしまうのは、あまりにも勿体ない話です。
この記事では、年賀状の起源に立ち返りつつ、現代のビジネスにおいて重要視される「クチコミ集客」「リピート販促」「値上げの準備」という3つの戦略的視点から、年賀状の価値を再定義します。
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【1】そもそも年賀状の起源とは何か
年賀状の習慣は、奈良時代まで遡ると言われています。当時は新年になると、お世話になった方々や親族の家を直接訪ねて挨拶をする「年始回り」が行われていました。
しかし、遠方に住んでいるなど、どうしても直接伺えない相手もいます。そうした際に、手紙を書いて新年の挨拶を伝えたのが年賀状の始まりです。
つまり、年賀状の起源は
「本来なら直接行って感謝を伝えたいけれど、叶わないからせめて書面で想いを届ける」
という、純粋な敬意と感謝の代替手段だったのです。
明治時代に郵便制度が確立され、現代のような形になりましたが、その根底にあるのは「相手を想う心」です。義務感で送るものではなく、「相手の顔を浮かべながら、一年の感謝を綴る」。この原点に立ち返ることで、ビジネスにおける年賀状の役割は大きく変わります。
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【2】クチコミ集客の「きっかけ」を作る
現代のマーケティングにおいて、信頼性の高い「クチコミ」は最強の武器です。しかし、クチコミは自然発生を待つだけでは不十分です。
年賀状は、顧客があなたのことを思い出し、誰かに話す「きっかけ(フック)」になります。
例えば、以前に弁護士さんとお話していた際「年賀状は出されてます?」と伺ったところ「900枚くらいは毎年出してますね。意外と年明けに相談や連絡が来たりと…」いろいろお話くださいました。
●「思い出してもらう」という重要性
人間は忘れる生き物です。どんなに良い商品・サービスを提供しても、時間が経てば記憶は薄れます。年賀状が届くことで、「ああ、あのお店(会社)は丁寧だったな」という記憶が呼び覚まされます。
● 会話のネタを提供する
デザインが凝っていたり、心に響く一筆が添えられていたりする年賀状は、社内や家族・友人との会話のネタになります。「今年の年賀状で、こんな面白いのが届いたよ」という会話から、新たな紹介(クチコミ)が生まれることも。
● ニュースレター年賀状(年始のご挨拶として)を送る企業
毎年、サポートさせていただいてる企業さん。開封率100%のA4ニュースレターをお送りされています。費用対効果は高く、毎年(毎回)ストックされるお客様も多いとか。
● Xmas・年末あいさつ状
年始ではなく、年末やクリスマスカードを送る会社・クリニックさんも増えてます。年賀状に紛れることなく、しっかりと見てもらいやすい…これも費用対効果が高いとの声を多く頂きます(経験則)。
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【3】リピート販促としての「最強のアナログツール」
メールやSNSでの挨拶は手軽ですが、その分、埋もれやすく記憶に残りづらいという欠点があります。一方で、紙の年賀状は「物理的に手元に残る」という強力なメリットがあります。
●「私だけに」という特別感
大量印刷された定型文だけの年賀状は、リピート販促には繋がりません。しかし、そこに「〇〇様、前回のプロジェクトでは大変お世話になりました」といった手書きの一言があるだけで、顧客は「自分は大切にされている/気にかけてくれている」という特別感(顧客満足度)を感じます。この情緒的価値が、競合他社への流出を防ぎ、リピート率を向上させるでしょう。
● 心理的ザイアンス効果(※)
何度も目に触れることで好感度が高まる「単純接触効果(ザイアンス効果)」が、ハガキという媒体では働きやすいのです。リビングの机の上に数日間置かれているだけで、その効果はデジタル広告を遥かに凌駕します。
(※)ザイアンス効果(ザイオンス効果/単純接触効果)とは、人や物に繰り返し接触する回数が増えるほど、その対象への好意や興味が高まるという心理現象です。1968年に心理学者ザイアンスが提唱し、マーケティングや広告、人間関係など幅広く応用されますが、第一印象が悪いと逆効果になり、接触しすぎると飽きられたり嫌われたりする点に注意が必要です。
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【4】「値上げの準備」としての関係性の構築・信頼貯金
今、多くの企業が直面している課題が「原材料高騰に伴う値上げ」です。値上げをスムーズに受け入れてもらうためには、日頃からの「関係性の構築」「信頼貯金」が欠かせません。
● 感情的なつながりが心理的ハードルを下げる
値上げの告知をする際、普段からコミュニケーションが途絶えている企業から突然「値上げします」と言われれば、顧客は「高いから他に変えよう」と考えます。しかし、年賀状などで継続的に感謝や敬意を伝え、感情的なつながりがある相手であれば、「この人が頑張っているなら、応援して使い続けよう」という心理が働きます。
●「安売り」からの脱却
年賀状に手間をかけることは、「私たちは安さだけを売りにしているのではなく、お客様との関係を大切にする質の高いサービスを提供している」というブランドイメージの構築に寄与します。丁寧な年賀状を送るという行為自体が、高単価を維持するためのブランディングの一環につながります。
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【5】義務ではなく「投資」として捉える
年賀状を「出さなければいけないもの(義務)」と捉えると、それは単なるコストになります。しかし、「相手への感謝と敬意を伝え、喜ぶ顔を浮かべて送るもの」と定義し直せば、それは将来の利益を生む「投資」へと変わります。
もし、全取引先に送るのが業務的に厳しいのであれば、「本当に大切にしたいAランクの顧客」に絞って、徹底的に心を込めた1枚を送るという戦略も有効です。
デジタル化が進む今だからこそ、ポストに届く「あなたからの温かい言葉」は、他社との圧倒的な差別化要因になります。
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最後に…あなたへの問いかけ
今年の年末、あなたは事務的にパソコンの印刷ボタンを押しますか? それとも、相手の笑顔を想像しながら、ペンを取りますか?
その一筆が、来年のクチコミを生み、リピーターにつながり、あなたのビジネスをより強固なものにするかも…と考えると、「年賀状じまい」が正しい選択とはいえないのではないでしょうか。
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